さる5/15(土)に,第二回山本雄士ゼミが開催されました。
年度初のケースディスカッションとなった今回のゼミは緊急事態宣言発令を受けて完全オンラインでの開催といたしましたが,40名を超える方々にお越しいただき,議論も非常に白熱しました!
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(ケース紹介)
アメリカのジョンソン・メモリアル病院を舞台に,非常に稀な病気(副腎皮質癌)に罹患してしまった患者とその家族の物語が描かれています。患者数が少ないだけに,エビデンスもノウハウも十分になく,「一体どこに行けば良い医療が受けられるのか」と途方にくれます。
良い医療を求めて奔走するなかで,いくつもの病院で何人もの専門家とやり取りをしますが,彼らの意見が食い違ったり,さらには保険のシステムの問題まで絡んできて…
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冒頭では,ラーメン屋を開くという想定で,売上,リスク,etc. 経営のために様々なことを検討しなければいけないというリアリティを実感するアイスブレイクと同時に,従業員視点でなく経営者視点で医療機関を見るための準備運動をしました。
(ラーメン屋の店長役を務めあげた)大本より感想
「これから医療の話をするのにと戸惑いながらやり取りを始めました。やり取りを進めていくうちに、たかがラーメン屋、されどラーメン屋を経営するにあたって、考えるべき様々な要素が浮き彫りとなり、ラーメン屋1店舗を経営することが意味する具体を理解することが出来ました。」
多岐に渡った議論の流れを振り返りつつ,ディスカッションから得られた主要な示唆を取り上げます。
前半では,Ledina Lushkoのうけた治療の評価できる点,問題のあると感じる点を列挙しながらケースを読み解きました。
セカンド・オピニオンを求めたという話から,組織のスタンスとして「メンツや様々な都合のため,院内での診療の完結を目指す」べきか「患者さんの診療のために積極的に外部の病院への紹介を行う」べきかという問いかけがなされます。ここに加えて,参加者から,「その組織のスタンスを現場の個人に共有し全体としての行動を規定することは難しいのでは」という疑問も投げかけられ,考えるべき課題の難しさと重要性の双方をより深く認識することになりました。
ケースを読み解いてのまとめとして,ケースに書かれた医療機関で,
一人ひとりはベストを尽くしていた
病院としての設備や技術のレベルは高い
こと,それにも関わらず,
患者さんは様々な不利益を被っていて,医療のポテンシャルを引き出し高いパフォーマンスを引き出せていない
ことを確認し,運営ややりくりががまずいせいで期待されるアウトカムを得られていない現状を課題として捉え,それを解決することがマネジメントの本質である,という学びとともに,前半のディスカッションは幕を閉じました。
後半では,このケース内及び一般の医療機関の体制がどうあるべきか,に関するディスカッションに入ります。zoomを用いたブレイクアウトセッションでの活発な意見の出し合いを行い,それを全体に還元する方法によって,多くの学びや気付きを得ました。
問題を列挙し問題点を裏返しただけの「提案」をすることはは誰にでも出来ます。その理由を掘り下げることが大切です。
たとえば,「情報の連携がうまくいっていない」という問題の原因を考えました。
個々の医師は忙しい
個人情報の取り扱いが難しい
お金の問題がある
等々…。たくさん挙がりますが,ここで山本先生から,「問題を解決出来ない理由ばかりたくさん挙げられるものの,誰一人問題を解決する必要性を感じ,当事者意識を持って考えていないではないか」との指摘が入ります。
情報の提供がうまくいっていないせいで困っているのは患者さんだけで,医療提供者に生じる不都合がないこと,その状態を許してしまっている医療業界の特殊さにも,ここで改めて実感しました。
マネジメントとは自分が当事者となってどう課題を解決するか考え実行することであるのに,その発想に至っていなかった,ということに気付かされました。
「自分がどう変えていくか」ということについて,再びzoomのブレイクアウトセッションで考えます。全体で様々なアイディアが共有されますが,「やはりどれも結局他人事になってしまっている」と山本先生のツッコミが入ります。つまり,結局具体的にそれをどうやればいいのかということについて考えるに至っていないのです。大事なのはアイディアを出せるかどうかではなく,自分で行動を起こせるかどうかである,という起業と同じ教訓がここで強調されます。
さらに,「診療科間での情報共有を促進すべきだ」という案が多く聞かれたのですが,ここで山本先生より,「情報共有に問題が生じているのを診療科が存在するせいだと考えるなら,その構造を無意識のうちに前提として考えていてよいのか。そもそもこの構造を壊すところから始めようという案が出てもいいのではそもそも情報共有の問題が生じているのは診療科が存在するせいであり,その構造を無意識のうちに前提として考えていないか。この構造を壊すところから始めようという案が出てもいいのでは」という指摘が入ります。無意識のうちに,医療提供側の論理や文化に染まり,顧客である患者さんの目線で物事を見ることや,変革にあたって前提を疑うことを阻害されていたわけです。
このように,自分の考えが何かを無意識のうちに前提としていたことに気付かされてハッとし見方の変わる瞬間は,ゼミの醍醐味であるように感じます。
どの業界でもあることですが,提供側の論理や文化に染まり,顧客である患者さんと全く異なる目線で医療業界の物事を見るようになってしまっていて,また染まった日常を変えられることを嫌がるので変革が阻害されるのだ,という大切な学びと,こういった視点の持ち方,そしてマネジメントのやり方や共通言語を知るディスカッションを一年を通して作り上げていこう,というメッセージとともに,3時間のゼミは幕を閉じました。
次回のゼミは,6/13(日)開催の「医療の戦略を学ぼう!〜ドイツの医療機関の新たな取り組みとその成功の事例から〜」です。
上でテーマになった,医療機関の「診療科」という構造の在り方についても考えられるケースです!日曜開催ですのでご注意ください。
申し込みはこちらから: https://21yamasemi02.peatix.com/
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