先日6/13(日)に2021年度第3回山本雄士ゼミを開催しました。
「医療の戦略とビジネスモデルを考える」というテーマで,ケースには,約9年ぶりに「西ドイツ頭痛センター」が登場し,新鮮な空気を味わえるゼミとなりました。
ケースの紹介
ドイツの保険会社KKHがエッセン病院と手を組み,片頭痛の統合型ケアとなる西ドイツ頭痛センター(WGHC)をつくるという話です。健康保険制度,保険者などの知識としての整理と,そのなかで保険者や病院がどう戦略を立てて西ドイツ頭痛センターを運営していったかがポイントになるようなケースでした。
ディスカッション
ケースの整理をする傍ら,「統合型ケア」の意味について触れました。今回のケースの中では,保険者と病院が”統合”してセンターをつくったという意味で使われています。ここで大事になるのは,患者(Pt),医療提供者(Provider),保険者(Payer)の関係で,保険者と医療提供者の間の,コストの押し付け合いや患者の囲い込みといった競争がなくなり,二者が患者と向き合うような構造になったことが有意義なのだ,という理解が示されました。
WGHCをなぜ設立したのか?そして,WGHCで何が変わったか?
この2つの視点からケースの内容を深堀りしました。
なぜ設立したのかという点では,現状の問題点ときっかけの出来事に注目しました。挙手制で様々な意見が参加者から挙げられます。
現状の問題点としては,患者さんから見て片頭痛の非薬物治療の提供が不十分であること,保険者から見てケアのコストが高いことが挙げられました。
また,きっかけの出来事としては,GMGという保険者と医療機関が個別契約をできるという法律ができたことや,当時のKKHが新規加入者を探すために部門を作ったことが挙げられました。ここでは議論を通じて法律改正に関して話が深まり,長期的に見て金銭的なインセンティブが最も大きな力を持つことは日本の医療制度を見ても明らかで,だからこそ「財源の1%を,新しい医療提供体制の整備のために回す」という案が有効であったのだ,という点が強調されました。
何が変わったのか,これを捉えるために,前述した問題点は解決したかということと,新たな問題点はあるか,という点に注目しました。ここでも様々な意見が挙げられ,理解を深めてゆきます。
問題点であった非薬物治療に関しては,神経内科医が理学療法士や臨床心理士などと手を組んで対応し,センターを出たあとも神経内科医のネットワークの中でアフターケアをきちんと行うことで対処していました。
コストに関しては,病院だけのコストに囚われずに,保険者や患者側のコストも考慮することが大事だ,という議論になりました。
また新たな論点として,このモデルで,医療機関の「利益額」が上がっているのに「利益率」の上昇に繋がっていない状態を是とするかどうか,という点についても議論がなされる必要がある,という指摘が入り,有意義な気付きとなりました。
最後に,山本先生の取り組んでいるトピックでもある「健康への投資」についてのいくつかのトピックがされ,ディスカッションは幕を閉じます。「かかっている医療費と,不健康で失う生産力はどれくらいの比なのだろう?」「AbsenteeismとPresenteeismはどちらが大きい?」「Value-based Healthcareとは?」…。
今回のケースは,内容としても難しめでしたが,新しい知識や考え方のフレームワークを身につけるという点で非常に役に立つケースだと感じました。
9月以降の企画日程をまもなく決定の予定です!こちらで情報を発信しております!
Twitter: https://twitter.com/yamamoto_semi
今後とも,山本雄士ゼミをようぞよろしくお願いします。
Comments