• 山本雄士ゼミ学生スタッフ

開催報告:2019年度第5回〜新しいモデルの高齢者プライマリ・ケア〜

【第5回 山本雄士ゼミ ご報告】

9/21に開催しました、第5回のゼミの報告をさせていただきます。


ケース:"Oak Street Health: A New Model of Primary Care"


今回のゼミでは、和訳したばかりの新ケース「オーク・ストリート・ヘルス(以下OSH)」を用いました。新ケースを目当てに参加してくださった方もおり、ディスカッションの内容も非常に新鮮でした。


プレゼミでは、まず今回の大テーマである「プライマリ・ケア」の概念についてグループ内でそれぞれの意見を共有して頂きました。その後、ACCCAという5つのキーワードをプライマリ・ケアを捉えるひとつの枠組みとして紹介した上で、それに沿ってOSHが実践した具体例を列挙し、ケースの全体像を把握しました。また、アメリカの保険制度にも触れているケースだったので、メディケアの4つのパートの確認と、出来高払いと人頭払いの支払い方式とそのメリット・デメリットについての知識を共有し、プレゼミでのケースの復習としました。確認事項が多く、時間の都合上グループ内で共有した内容を発表してもらう時間が取れなかったのですが、一方で、発表することを前提とした「置きに行く」ディスカッションではなく、より自由な意見交流の促進へと繋がったのではないかという意見も参加者から頂きました。


さて、本ゼミのまとめに移りたいと思います。ディスカッションはOSHの価値は何かというお題から始まりました。黒字経営を維持している、プライマリ・ケアへの積極的な取り組み、地域のコミュニティへの浸透などが挙げられましたが、中でも「高齢・低所得者への医療提供」が、その後のディスカッションへと繋がるキーワードになったと思います。

その後、OSHのお金の流れを紐解くディスカッションへと移り、アメリカの保険制度(メディケアとメディケイド)の理解で不足していた点を補いました。OSHの利用者はメディケアに加入していた人がほとんどでしたが、プランを変更してパートCへ加入する人がいたという記述から、出来高払いと人頭払いのメリット・デメリット、そこから過剰・過少医療の可能性について触れました。メディケアのパートCのプランは民間の保険会社に委託していますが、アメリカでは保険商品の内容の詳細(加入資格、保険料、カバー範囲、カバー額、自己負担など)から、医療サービスの価格まで自由に操作できるという特徴があり、リスクとリターンが最適な形(ポートフォリオ)を決めるという「最適化作業」は外部に委託するほうが費用対効果が良いという背景があるからであるというレクチャーがありました。

OSHは、非常に優れた集客力を持ち、そこから健康サービスへの転換という大変な業務を成功させました。それを支えたのは送迎サービスを確立して利用者の囲い込みや未利用者へのPRを成功させたアウトリーチチームと、患者と医師の頑丈な信頼関係の構築をサポートしたデータマネージャーやナースプラクティショナーを含む、診療が効率化された診療チームであると議論はまとまりました。ここでは、これが成功した背景には「医療というサービスの提供に一生懸命であることを悪く思う人はいない」という人間の心理があるというポイントが議論に広がりをもたらしました。ここにも医療の特殊性が顔を出すのか、と非常に納得のいく展開だったのではないでしょうか。


ディスカッションのまとめは、OSHの価値であるハイリスクである高齢・低所得者をターゲットにしたにも関わらず、なぜ成り立っているのか、今後はどのように事業を拡大していくのかという点に目を向けました。利益相反、高利潤事業への誘惑などというキーワードが登場し、OSH側の利益の拡大を重視するとどうなるかという話に移りましたが、多方面で利益を求めに行くとうまくいかないという意見には、納得されている参加者の方が多かったように感じます。OSHが保険会社にとって非常に優秀な戦略パートナーになり得るという意見では、保険会社はOSHに委託費・運営費を支払うものの、結果的に医療費の請求額が下がれば保険会社にとっては利益になり、委託費・運営費の方が高ければ保険料を引き上げる口実になるということが導き出され、本質的な強みになることに感嘆された参加者も多かったのではないでしょうか。また、このように保険者と医療提供者が一つになったモデルというのが、理想的であるということを着地点とし、ディスカッションは終結しました。


新しいケースの導入は、新たな視点の獲得と新鮮で活発なディスカッションへとつながったと思います。プライマリ・ケアの概念と必要性を理解する上で、今回のケースのような成功事例を紐解くのは非常に効率の良い方法であったのではないでしょうか。プライマリ・ケアを日本に導入するにあたる障壁といった今後の問題点の抽出、解決策の構想など、新しいディスカッションへと発展していくきっかけになれば良いと感じます。

5回の閲覧0件のコメント