スタッフインタビュー企画の栄えある第1回目を飾るのは、山本雄士ゼミ10代ゼミ長の金井祐樹さん(東京大学医学部医学科6年)。初のゼミ参加から今年で3年目となる金井さんに「ゼミでの学び」と「山本先生に感じるスゴさ」をお聞きしました。
(※写真は4月の緊急事態宣言中のものです。)
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ーーまず、山本ゼミとの出会いを教えてください。
初めてゼミに参加したのは大学4年生の春頃でした。もともと大学に入ったばかりの頃から「山本雄士ゼミなるものがあるぞ」というのは耳にしていましたが、アルバイトに時間が取られてしまいなかなか参加出来ずにいました。
初回のテーマでは保険者がどうとか、経営の専門用語が飛び交いチンプンカンプン。何かしら掴んで持って帰ってやろうと、板書を隅から隅まで写していました。しばらくしてから、板書はあくまでも議論の整理のためのもので、板書を写すことよりも自分の頭で考えて自分の言葉で表現することの方がもっと重要だと気付きましたが...。
ーー山本ゼミでは参加者の積極的な発言により議論が進んでいきますが、金井さんも初めの頃から発言はされていた?
2回目3回目と参加を重ねるごとに、少しずつケースディスカッションの形式にも慣れていきました。ですが、まだまだ大勢の前で手を挙げて発言は出来ず…あれ、結構勇気が要りますよね。慣れて話せるようになるまで半年近くかかりました。
4年生の6月か7月くらいからゼミスタッフとして参加するようになりました。初めのうちは明確な目的を持って参加していたわけではなく、声をかけてもらって面白そうだから「スタッフやってみるか」くらいの気持ちでいたんです。新しいことを始めるときに割と直感を重視する方なので。
ーー今では何かしらの目的意識が芽生えていますか?
そうですね、今は「ゼミ的思考やノウハウを国際保健のフィールドで役立てたい」という比較的はっきりとした目的を持って取り組んでいます。
高校生の頃から国際保健や医療制度に興味を持っていました。医学部での学びを通して、JICAやWHOなどの「制度づくりをサポートする側」と、国境なき医師団のような「自分の手で実際的に医療に貢献する側」のどちらに従事しようかということを考えるようになっていました。
ーー確かに医療制度に関心を持ってゼミにいらっしゃる方は多いですね。
そんな時、山本ゼミで興味深いケースをいくつか扱いました。アメリカのCleveland Clinic (*1)やOak Street Health (*2)を含む医療機関に関する複数のケース・スタディです。(「あらゆる人にあらゆるものを」という経営の世界では御法度のビジョンではなく)価値の訴求点を上手に見いだして、つまり誰をどう幸せにするかを明確に特定して、経営資源の配置や業務プロセスの設計において、従来の総合病院や診療所とは異なる新しいビジネスモデルを提供していたのです。
「このモデルを日本で取り入れることはできるんだろうか?例えば、定額の年会費の支払いでその人の全ての医療費をカバーするようなモデル (*3)は、現行の日本の診療報酬体系には組み込めないのではないだろうか?」そう考えるうちに、医療制度の整備は、収入などによらず全ての人に医療へのアクセスを確保する点で絶対に必要なものであるのは間違いない一方、その制度が整備された当時の診療モデルが時代遅れになっても、その延命を助長してしまう副作用もあるのだとわかりました。
*1 オハイオ州クリーブランドで病院や診療所のネットワークを運営する統合型医療システム。本院は世界屈指の学術医療センターとして知られる。
*2 イリノイ州シカゴを本拠とし、貧困層の高齢者を主なターゲットにプライマリ・ケアを提供する診療所チェーン。
*3 Oak Street Healthが採用している医療費のモデル。Oak Street Healthの会員は、定額の年会費に対して、診療所でのプライマリ・ケアに加え、Oak Street Healthが指定した病院での入院検査・治療、救急外来の利用など、全ての医療サービスを追加負担なしで受けることができる。
ーーその学びと中低所得国の医療制度とはどのようにつながっているのですか?
国際機関を通じて中低所得国の医療制度構築に携わる場合、先進国の医療制度をモデルとしてその国に合わせた調整を行っていくことが多いように思います。もちろん、中低所得国で医療制度を整備すること自体は、医療業界の基盤を作ったり、医療の質・量や医療へのアクセスを安定化する上で不可欠なものです。しかし、そのモデルとなる高所得国の制度が、現代では複雑化しすぎて非効率となった診療モデルに依拠している場合には、「古い診療モデルの延命を助長する」という点において、あたかも船底に穴のあいたタイタニック号をテーブルや椅子を整頓しただけで輸出するようなものだと感じるようになってきました。
この点において、「中低所得国で医療制度が未整備である」ということに対して、効率的な診療モデルを民間が先に立ち上げて規模を拡大できる余地が大きいことも意味するという逆転の解釈をすることもできます。例えば、ゼミの新企画を立案する過程で見つけた事例なのですが、インドのNarayana Hrudayalaya Heart HospitalやAravind Eye Care Systemといった医療機関は、総合病院のように全ての診療サービスを取り揃えるのではなく、特定の疾患領域の診療に対して経営資源や診療プロセスを最適化し、先進国と同様の診療レベルを(人件費などの差を調整しても)先進国よりもはるかに低い価格で提供しています。
そして、(先に制度を作ってそれに合わせた診療モデルを複製するのではなく)効率的な診療モデルを先に立ち上げた上で、それを安定化するような制度設計を引き込んでいくことができれば、医療システム全体として人々に医療の価値をよりよく届けられるのではないか。ゼミやそれに関連した書籍での学びから、そんなことを考えるようになりました。
ーーゼミ参加により今まで抱いていた考え・価値観が大きく変わったわけですね。
このような考えを深めていくプロセスは、今まで国際保健や医療制度に対して抱いていた価値観が大きくひっくり返される経験でした。1回のゼミという時間軸上の1点で変わったというよりは、各回のゼミで投げかけられたモヤモヤを持ち帰りそこから学びを広げていくというプロセス、時間軸上の長い線を通して変わっていったという感じです。
自分の将来として今は、東南アジアのミャンマーという国で、医療提供者として効率的かつ質の高い診療モデルを作る側に携わるか、または国際機関で新しい診療モデルの育成を触媒するような医療制度を設計する側に携わりたいと考えています。なぜミャンマーなのかと聞かれると、それは市場調査のようなデータに基づいた判断ではなく、シンプルにミャンマーの人々や文化に惹かれているからです。これもゼミスタッフになった時と同じ直感ですね。オタクの荒ぶりになるのでこれ以上は控えますが笑。
ーーそのような将来像を踏まえて、改めて現在のゼミに対する目的意識を教えてください。
前置きが長くなってすみませんでした笑。現在のゼミでの目的意識としては、上のような将来の目標を達成するために、「潜在的な医療サービス利用者のニーズを理解した上で、その人たちの課題を解決するために最適な製品やサービスを設計し、それを提供するための資源の確保や組織内プロセスの構築などの手法を、ケース・スタディを通して模擬的に実践し習得する」ことに設定しています。
効率的な診療モデルといっても、それが世界共通で有効かは分かりません。国や地域によって医療サービスに対するニーズも様々でしょうから、人々の生活を観察してニーズを理解することをトレーニングする必要があります。ニーズが違えばこれまで存在しなかった診療モデルを生み出す必要が生じるかもしれません。
ーーその目的はゼミ参加によって満たせそうですか?
はい、もちろんです。山本先生からはまだまだ多くのことを吸収できると感じています。私の思う山本先生のスゴさは「問いを立てる力」にあると考えています。
山本先生であれば、ケースの背景にあるアイデアや、先生なりの考えをたくさん喋ることも容易だと思います。しかし先生はあえて本質的な問いを立てるところから始めます。これにより参加者は、山本先生と伴走しながら、しかし過度に誘導されることなく、思考や疑問を深めることができる感じがあります。
さらにスゴいのは、問いの立て方がワンパターンではないということ。確かに基礎知識の点では理解できることも増えてきましたが、「この種の問いにはこう答えれば良い」といった思考のパターン化は一切みられません。だからこそ何度参加しても飽きないし、毎度成長するだけの価値がある、そう感じています。
また、ゼミ長になって半年経ちますが、先の「ゼミでの目的意識」で申し上げたことは、実はゼミ長としてon the job trainingで鍛えられるものなのではないかとも感じています。
ーー山本ゼミによりもたらされた、金井さん自身の最も大きな変化は?
山本ゼミ参加から今年で3年目ですが、継続的に参加することで自分自身に、先に述べたものも含め徐々に多くの変化がもたらされました。ですからこれが一番だ、とはなかなか決められません。
ですが、とても大きく感じられる変化の一つとしては「『べき思考』がなくなりつつある」こと。大学入学当初は、「こうすべきだ」といったような規範に囚われた思考をしがちでしたが、その傾向が徐々に薄れてきているのを感じます。ゼミの中で「立場による思考の枠組みを疑う」きっかけをもらったからかもしれません。
ゼミがなければ今の私はありません。山本先生からの学びも、ゼミスタッフ間の何でも話せるような落ち着く雰囲気も、全てが今の私を形作っています。
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金井さんによれば、山本ゼミでの学びは底を尽きることが無く非常に価値の高いもの。それゆえ何度参加しても、新しい発見を得、新しい疑問を持ち帰ることができます。
山本雄士ゼミでは初参加の方はもちろん、参加経験のある方も歓迎しています。Harvard Business Schoolのケースを用いた他には無いケースディスカッションで、私たちと一緒に対話の海へ飛び込みませんか?皆さんのご参加をぜひお待ちしています!
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